会社で働いていると、労働者の立場はどうしても弱いことから、さまざまな形で理不尽な状況を強いられがちです。上司からいわれもない叱責を受けたり、いやがらせともとれるような命令を受けたりなど、その内容は多岐にわたるかと思います。

会社の慣例を強いられるあまり、みなし残業が当たり前のような社風もあるでしょうし、名ばかりの管理職につけられることによって、管理手当がつくかわりに残業代が支払われないという状況も往々にしてありえます。

今回は、このような理不尽のうち、残業代が支払われない状況に対する対処法についてご紹介していきます。

残業代未払いの解決前に知っておきたいこと3つ


もっとも、未払いの残業代を支払ってもらうと言っても、就業中のどの段階からが残業代としてカウントされるのか、あるいは、そもそも就業中の間であったとしても、いっけん仕事とは関係のないような内容で会社に拘束される場合はどうなるか、などといった部分が不鮮明のままでは、請求をすることも難しいでしょう。

そこで、未払いの残業代について考える前に、そもそも残業代とは何なのか、という前提問題について考えていきたいと思います。

①そもそも残業代はどのような場合に支払われるのか

残業について考える前に、そもそも残業にあたらない業務とは何か、について考える必要があります。労働基準法によると、1週間に40時間、1日に8時間を超えて労働をさせてはいけないことになっています。

つまり、法律の定めによると、この1週間40時間、1日8時間の部分が「法定労働時間」として、従業員に働くことを強いてよい時間で、これを超えてなお働く場合には、この超過部分が「残業」として扱われるということになります。

したがって、法定労働時間との関係で、1週間に40時間を超えている部分、そして、1日に8時間を超えている部分については、残業代が発生することになり、会社は割増しした賃金を支払わなければならないのです。

また、通常の会社では、労働契約書や就業規則の中で、労働時間についての定めがあるのが一般的です。これを「所定労働時間」と言いますが、この所定労働時間を超える場合にも、会社内の扱いとして残業となることから、会社は従業員に残業代を支払わなければなりません。

ただし、所定労働時間を超えているが、法定労働時間を超えていない場合には、法律上の時間外労働としての扱いを受けることができないことから、必ず会社に残業代の支払い義務が生まれるというわけではない点に注意が必要です。

つまり、所定労働時間との関係で、就業時間を超えて労働している場合には、残業代を請求することができる場合がある、ということになります。

さらに、労働基準法では、深夜の時間帯に労働している場合についても定めています。地域や期間によって異なるのですが、午後10時から午前5時の間に労働をしたときには、法律上「深夜労働」として扱われます。この深夜労働に当てはまる場合には、会社は割増賃金を支払わなければなりません。

つまり、深夜労働というだけで割増しが発生しますし、この深夜労働が、残業に該当する場合には、さらに残業分としての割増し賃金の支払いを受けることができるのです。

また、休日に出勤しなければならない場合の扱いについても、労働基準法で定められています。つまり、1週間のうち少なくとも1回の休日を与えなければいけませんし、さらに4週間の間に4日以上の休日という枠も設定されています。したがって、この休日条件を超える場合には、休日出勤として扱われて割増賃金の支払いを受けることができるのです。

②労働基準法で認められている労働時間とは

会社の昼休みの間に、食事を食べながら電話番をするという経験をしたことがある方は多いと思われます。いわゆる「手待ち時間」と言われるもので、電話番をしている時間や、来客を待っている時間のことを言います。

待っているだけとは言え、電話がかかってきたりお客さんがやってきた場合にはすぐに対応を強いられることになりますので、この作業に従事している間は、業務にかなり関連付けられていることになります。

このような事情から、このような手待ち時間は休憩時間としてカウントされるのではなく、労働時間として扱われることになります。実際に、手待ち時間の間に電話がかかってこようがかかってこまいが関係なく、電話番などをしているだけで労働時間にあてはまることになるのです。

したがって、このような手待ち時間については、賃金を請求することができ、この時間がしわ寄せとなって残業代が生じた場合には、会社は当然に残業代について割増しの料金を支払わなければなりません。

また、会社の案内やまたは命令によって、時間外にセミナーを受講しなければならないといった教育訓練を受けに行く場合があると思います。例えば、休日に研修という名目でセミナー受講をするというようなことがあるでしょう。こういった時間外の教育訓練については、場合によっては時間外労働として残業代を求めることができることがあります。

そもそも、当該セミナーを受講することが会社の命令である場合や、法律の定めにしたがって研修を受ける必要がある場合には、当然、時間外労働として扱われることになります。ただし、この時間外の教育訓練に参加することを会社が強制しているわけではなく、完全に任意で受講するような場合には、時間外労働として認められないこともあるでしょう。

③労働基準法で認められない労働時間とは


以上で述べた以外に、労働時間にはいるかどうかの扱いが微妙な事柄がいくつかあります。これらについては法律で定められていないことから、それぞれが裁判所で判断されているものです。

例えば、会社所定の入退場門から更衣室などまでの移動時間は労働時間には入らないと判断されています。また、休憩中に制服などを着脱する時間も労働時間として扱われないと判断されています。作業終了後に洗顔をした時間などについても、労働時間としては扱われません。

とはいえ、事情によっては労働時間に含まれる場合もあるようです。例えば、制服に着がえることが義務付けられていて、さらに、その着がえは更衣室で行わなければならないとされているように、労働に直接関係ないように見えたとしても、会社に強制されていると考えられるような場合には、労働時間としてカウントされることもあります。

また、これと同じように、更衣室から作業場までの移動時間についても、この移動を行わなければ労働をすることができないという意味で会社に強制されていると言えるので、労働時間として扱われるのが一般的です。

このように、労働基準法に定めがないことから、労働時間に含まれるか微妙なものはたくさんあると思われます。しかし、労働時間に含まれるものもありうる以上、怪しいと思った場合には、すぐに専門家などに問い合わせるとよいでしょう。

未払い残業代を解決する方法4つ

それでは、どのような場合が残業とされるかについておおよその知識を得ることを前提に、実際に残業をしているのに発生している残業代を支払ってもらっていないとき、どのような手段によって未払いの残業代を支払ってもらうことができるか、ということについて説明をしていきたいと思います。

①会社に交渉する

一番てっとり早い方法として考えられるのが、会社に直接交渉することによって、未払いの残業代についての支払いを求めるという方法が考えられるでしょう。

この方法によるメリットは、第三者に依頼する必要もなく、当事者の間の話し合いによる解決を目指す手段であることから、非常に簡単に行うことができるという点が挙げられるでしょう。残業代について、「おかしい」と思ったときに、すぐに問い合わせができるというように、簡素な手段という意味では有効かもしれません。

しかし、このように未払い残業代についての指摘をしてくるような労働者に対して、会社はどのようなイメージを持つでしょうか。本来であれば、残業代を支払うのは会社の義務ですし、これが支払われていない場合にそれを請求するのは、むしろ正しいことなのですが、残念ながら日本の風土の問題でもあるかもしれませんが、このような請求をする労働者は、会社の中で腫れ物のような扱いをされてしまうでしょう。

そして、このことが明るみに出た場合には、今後この職場で今まで通り働きづらいような雰囲気が醸成されることもあるでしょうし、明るみに出ないとしても上司にはばれてしまっているわけですから、不利な扱いを受ける可能性もあります。

このように、会社に直接交渉するという手段は、極めて簡素で簡単な手段ではあるのですが、その一方で、今後も会社に在籍して就業したいという意思を持っている場合には、会社と余計なトラブルが発生する可能性が大きいという点でデメリットがかるとも言えるでしょう。このようなデメリットが大きく感じることから、泣き寝入りしている労働者が多いとも言えるのです。

②労働基準監督署に申告する


会社内での就労をめぐるトラブルを扱っているものに、労働基準監督署というものがあります。これは、法律で定められている通りの労働条件が確保されているかチェックし、されていない場合にはその改善を促すという、文字通り「監督」機関です。厚生労働省の管轄のもの、全国に300か所以上に展開されています。

残業代の未払いという事態は、最初に述べたように、労働基準法に違反することですから、確実な証拠をそろえたうえで、労働基準監督署に通報することができれば、これのチェックが入ることになり、未払いの残業代が支払われる場合があるでしょう。

労働基準監督署のチェックが入った結果、指導や是正勧告がなされた場合には、会社は現状に抱えている違法状態を改善しなければなりません。

その結果、未払いの残業代が支払われることになるでしょう。
ただし、注意をしなければならないのは、労働基準監督署の役割は、あくまでも会社が違法な労働環境を作っている場合に、それを改善させるというものです。

したがって、会社が労働基準監督署の是正命令に従わなかった場合などに、かわりに未払いの残業代の支払いを命じるといった、民事的な力を持っているわけではありません。悪質な会社に対しては、刑事事件として立件するということを行うことがありますが、かわりに未払い代金の請求を行ってくれるわけではないのです。

つまり、労働基準監督署のチェックによって、会社が任意に残業代を支払ってくれる場合には有効な手段ですが、会社の任意が得られない場合には、労働者個人で以下の手段を採るしかないということになります。

③通常訴訟で請求する

以上のような手段によって残業代を支払ってもらえない場合に、労働者としては、他の金銭の支払いを求めるような場合と同じように、訴訟を提起することが考えられます。未払いの残業代について、会社を被告として、一般の給付訴訟を提起するという手段です。

例えば、AがBに対してモノを売ったのに、代金を支払ってもらえない時には、訴訟を提起して、その売買代金を請求することになりますが、このような事例と同列の方法によって未払い分の残業代を請求するという具合です。

しかし、注意しなければならないのは、上で挙げた売買代金を請求する事例では、売買の契約書が手元にあるでしょうし、訴訟を提起するための手間はそう多くはかからないでしょう。

未払いの残業代の支払いを求めて訴訟を提起するためには、残業代がどれだけ未払いであるのか、ということを、原告である労働者の方でしっかりと算定した上で請求をしなければなりませんし、そもそも、タイムカードなどの証拠は会社の手元にあることから困難が待ち受けているといえるでしょう。

さらには、労働者という個人が、企業という大きな組織を相手にして訴訟を提起するというのは、現実的な問題としても厳しいだけではなく、精神的にもタフなことです。労働問題に強い弁護士を探すのも大変でしょうし、訴訟の機関も比較的長くなってしまうので、なかなか解決をすることができず、心が折れてしまうこともあるでしょう。上訴される場合には、数年にも及ぶ裁判を行う必要があり、かなりのデメリットではないでしょうか。

④労働審判で請求する


通常訴訟を利用する形で未払いの残業代を請求することが困難であることを前提に、このような労働者を守るために作られた制度が「労働審判」というものです。これを利用することで、通常訴訟によるよりも、短期間で未払いの残業代についての紛争を解決することが期待できます。

労働審判とは、労働問題について専門的な知識をもつ人が労働審判委員となって、裁判官とともに、事件について審理をするというシステムがとられます。使用者団体の推薦で一人の労働審判委員が選出され、労働者団体の推薦で一人の労働審判委員が選出され、そこに裁判官が一人加わる形で審理が行われますので、中立性と専門性が保たれるように工夫がされています。

さらに、先程の通常訴訟での時間の面での弊害を除去するために定められた制度ですので、早期の解決にも配慮がなされています。

つまり、労働審判は、原則として3回以内の審理で終結しなければならないとされており、実際では2~3か月程度の期間で終結するのが一般的です。この3回の間に和解が成立せずに、審判内容に納得できない場合には、民事訴訟によるより他ありません。

また、民事訴訟では立証方法などについて厳格な定めがあり、その結果、現実の労働環境を踏まえた配慮がなされにくいというデメリットがありますが、労働審判では、いわば一番の目的が和解の成立であることから、できるだけ当事者の意向を取り組もうとする試みがなされます。そのため、実態に即した解決を図ることができやすいのです。

さらにメリットとして挙げられるのは、通常訴訟を労働者本人だけで行うのは難しく弁護士に依頼するしかないのですが、労働審判の場合には、多くの労働者が自分で申立てをしているという傾向があります。結局弁護士費用がかかるでしょうし、請求する残業代との関係ではほとんど手元に残らないということもありうるでしょう。

しかし、労働審判では、労働者のみの力で行うことが簡単ですので、この点の心配を排除することができます。もちろん、専門家に依頼することもできますが、まずは自分で処理してみようという試みを反映させやすい構造になっています。

未払い残業代を解決するのに必要なもの

上で説明したような解決方法があるとはいっても、実際に残業代が未払いであることについての証拠が一切存在しないような場合には、どれだけ口で文句を言ったとしてもこれが認められることはないでしょう。どうしてもある程度の証拠をそろえる必要があります。
そこで、以下では未払いの残業代を請求するうえで、どのような証拠を集めておくべきか、ということを説明していきます。

有効的な証拠

まずは、未払いの残業代を請求するにあたって、有力な証拠となりうるものについて説明をしていきます。これらの証拠を集めることが絶対必要というわけではありませんが、これらが揃っている場合には、労働者側の主張を基礎づける上で、非常に役立つことになります。

また、これら以外の証拠であったとしても、未払いの残業代を求める場合に有効な証拠となるものもありえます。そこで、闇雲にたくさんの書類を集めるのではなく、「実際に毎日、何時から何時まで働いたのか」「それに対して会社からはいくら支払われたのか」という点が一番大切なポイントとなるのだ、ということを念頭においておきましょう。

この点からは、例えば給与明細などは、まさに支払われた金額が明記されていることから重要な証拠であると言えるでしょう。

雇用時に受け渡されている書類

会社と雇用契約を締結するときには、かならず書面の雇用契約書・労働契約書、また、労働条件通知書が交付されるでしょう。

この契約書にどこまでの内容が記載されているかは会社によって異なりますが、後々にトラブルが発生したときに備えて、これらの書面が交付されることになっているのです。雇用契約を締結したときには、後々のトラブルがおこることなど予想もしていないでしょうが、しっかりと保存しておかなければなりません。

この書面には、業種や雇用形態についての説明が記載されているだけではなく、労働時間や時間労働について、また、賃金体系についての条項も記載されているのが通常です。

したがって、残業代が未払いの状態にある場合には、「そもそも契約書ではこのように記載されているのに、契約書通りに支払われていません」という主張を展開することができるということになります。

就業規則の写し

一番はじめに簡単に述べましたが、法定労働時間を超えていない場合であっても、会社の定める就業規則で定められている労働時間を超えている場合には、会社に対して残業代を支払うように求めることができます。

このような、就業規則を超える部分に関しての請求をしたい場合には、どれだけ労働基準法を読み込んだとしても意味がありません。就業規則の中で定められている、時間外労働についての条項を参照する必要があるのです。

現在では、就業規則を定めている場合には、従業員がいつでもそれを閲覧できるような状態にされています。よって、このコピーをとっておくことが有効な手段となります。

時間外労働についての他の規定についても定められている可能性があります。例えば、残業を行う場合には、必ず上司の許可が必要である、というような、それぞれの会社において、独自的に定められたルールもたくさん規定されています。このことからも、就業規則は、未払いの残業代を考えるにあたって、重要な証拠となりえます。

始業・終業時刻が証明できるもの


実際にどれだけの時間就労していたかを示すものとして、一番考えらえるのがタイムカードや出退勤についての記録簿でしょう。しかし、このような資料について、これを労働者の手元に置いておくことができないのが通常でしょうし、おそらく間違いなく会社がこれを管理しています。未払いの残業代の請求を行いたい場合や、これに予め備えたい場合には、これをコピーしておくことが有効でしょう。

会社の総務などにコピーをとりたい旨を申し立てても、おそらく理由を聞かれるでしょうし、そうなってしまった場合には、労働審判などの手段を検討していることが会社にばれてしまう可能性が大きいです。できるだけ事前に知られないうちに準備を整えるべきでしょうから、コピーをおすすめします。

残業代の請求をする場合に、すでに退職してしまっている場合もあるかと思いますので、この意味でも事前にコピーをとることは有用な手段でしょう。

会社によってはタイムカードなどがない場合や、データ管理がされているような場合があるでしょう。このような場合には、コピーをとることが難しいでしょうから、手帳などにメモをしておく必要があります。

メモの有用性については以下でも述べますが、できるだけ規則正しく、正確な印象を持たせるように記述するように心がけると良いです。期間が長期間にわたる場合にも信用性を増す要因となります。

さらには、終電がなくなってタクシーなどで帰宅する必要がある場合には、経費を申請するために書類が作成されるかと思いますので、そのような書類を保管しておくこともまた有効な代替手段とも言えます。

残業時間中の労働内容が証明できるもの

会社によっては、残業を行う場合には、残業指示書や残業承諾書などの書面を作成することを慣例としている場合があります。

このように、残業についての管理を書類によってしっかりと行っている会社であれば、おそらく残業代について未払いの状態が発生することは少ないかと思いますが、油断をしていると危ないです。

書類によって残業の指示がなされている場合には、これらの書類が直接残業の事実を示してくれていると言えますので、非常に有効な証拠として利用することができるでしょう。

未払い残業代を解決する有効的な証拠にならないもの

未払いの残業代を請求するためには、残業が確実に発生していたと証明しなければなりません。その証明をするための方法として、上ではいくつかの証拠について説明しましたが、場合によっては証拠として採用されにくいものがあります。

例えば、就業の時間についてメモを取っている場合であったとしても、毎日欠かさずメモに記帳している場合と、長期間の出退勤時間を一度に書いてしまっているメモとでは、おそらく前者の方が証拠としての力は認められるでしょう。筆跡が同じであったり、乱雑に書かれている場合には、「正確に就労時間を記載している」かどうかが疑わしくなってしまいますので、どうしても証拠としての力は減殺されてしまいます。

例えば、家族に「今から帰ります」というような内容のメールをしたとしましょう。このようなメールが毎日残っている場合には、確かに信用性は高まるかもしれませんが、それでもタイムカードにおける正確性と比べるとあまり信用できるものではありませんので、証拠としての力は弱いでしょう。

最も、このようなメールでも間接的には終業時間を示す力がある場合がありますので、一概に証拠としての力がないとは言えません。たった一日のメールであれば弱いでしょうが、メールを送ることが日課になっているような場合には役立つこともあるでしょう。

こ有力な証拠にはなりえませんが、間接的には就業の時間を示しうるものというものがたくさんあるかと思われます。場合によっては役立つこともありますので、一概に軽視してはいけません。

例えば、通勤にIC定期を利用している場合には、改札の通過時刻が残るでしょう。このような証拠も、間接的には就業時間を推認させる証拠としての力を発揮する場合があります。

未払い残業代を解決する有効的な証拠がない場合

ここまで説明したような証拠をしっかりと集めることができる場合には充分に労働審判などで交渉を行いやすくなるでしょうが、実際に未払いの残業代が発生していることがわかったときに、いざ遡ってさまざまな証拠を集めることは難しい場合が多いでしょう。ときによっては、有力な証拠を一切集めることができないこともありえます。

労働基準法では、労働時間を管理することは会社の義務であるとされており、労働時間を管理した記録については、3年間分は保存しなければならないとされています。例えば、タイムカードや電子記録によって労働時間が記録されている場合には、これらが三年間分は会社に残っているはずです。そこで、労働者としては、会社に対してこれらを開示するように求めることによって、証拠を集めることができることになります。

労働者からの問い合わせに会社が任意で提出してくれない場合もあるでしょう。ただ、労働審判の中では、労働者からの問い合わせには応じない会社であっても、裁判官などから提出を求められた場合には、これを提出するのが一般的だと考えられます。もしこれを提出しない場合には、都合の悪いことを隠そうとしているという評価を受けることになってしまい、ひいては会社にとって不利な審判内容が下されることになりうるからです。

つまり、このような手段をもって、会社に対して労働時間についての証拠を開示させることができる場合がある、ということです。

もっとも、文字通り、この記録が会社に残されるのは3年までですので、それ以上の期間についての記録が開示されることは期待できませんので注意が必要でしょう。さらに、会社が、この記録を改ざんするようなおそれがある場合には、事前に証拠保全手続きを申し立てるという手段をとることも可能となります。

未払い残業代を解決できる期間には「2年」という時効がある

労働基準法では、未払いの残業代などの賃金について、2年で消滅時効にかかってしまうことが規定されています。実際に会社で働いている場合には、働きながら未払いの残業代について請求することが難しい風潮でしょうから、労働者にとっては、この2年という限界はかなり大きな障壁であると考えらえるでしょう。

この二年の壁を乗り越えるための手段として考えられるのが、時効の中断制度を利用することです。中断事由が発生した場合には、時効は再びはじめから進行することになります。

これを行うためには、民法で規定されている中断事由を充たす必要がありますし、結局会社に対して、未払いの残業代について催告などを行わなければなりませんので、やりにくい手段ではあるでしょう。ただ、理屈の上では可能です。

さらに、場合によっては未払いによる残業代について、残業を強制していた点を不法行為であると構成することによって、支払い請求ができる範囲を拡大するという手法がとられることもあります。この場合には、さかのぼって3年分を請求することが可能になります。最も、不法行為と構成できるほどの悪質さが会社にある必要がありますので、特殊な場合に限られてしまいます。

未払い残業代はどのように計算されるか

では、次に、未払いの残業代を請求するとして、その具体的な金額をどのように算定するのか、という点について説明します。民事訴訟による方法であれ、労働審判による方法であれ、労働者側から未払いの残業代の金額については明示することが求められます。

そこで、どのように計算するのかについて検討します。法定時間外労働の場合と法内残業の場合とで扱いが異なる点にも注意が必要ですので、以下で分けて説明をすることにします。

法定時間外労働の場合

法定時間外労働とは、上でも説明したように法律で許されている労働時間を超えた残業のことを言います。原則は1日8時間、1週間で40時間、という基準を超えている部分についてカウントされます。これを計算するには、【時間外労働の時間数×1時間当たりの賃金×1,25】という公式をつかうことになります。

この1.25を掛ける部分が、残業代についての割増し賃金分になります。ただし、大企業の場合には、1カ月の時間外労働の時間が60時間を超えた場合には、その60時間を超過した部分については1.5を掛けた割増し賃金が支払われることになります。

法内残業の場合

法内残業とは、労働基準法で定められた労働時間の範囲内ではあるけれども、会社が就業規則などで定めた所定労働時間を超えた部分についての残業のことを言います。この法廷残業代を算出するには、【法定残業の時間数×就業規則などで定める1時間あたりの単価】という計算方法によって算出されることになります。

注意点

これらの残業代を算定する場合の前提ですが、残業時間は1分ごとに算定されなければなりません。30分未満は切り捨てとするなどの条項は許されていません。

また、法定の休日労働に該当する場合には、35%の割増し賃金を支払う必要がありますし、深夜労働の場合には25%の割増し賃金を支払わなければなりません。これらが残業に該当する場合には、残業分の割増し賃金に加えて、それぞれ割り増し分がカウントされることになる点にも注意が必要です。

会社側から見た未払い残業代の脅威

労働者にとって残業代が支払われないという事態は憂鬱な状況を招くでしょうが、実は未払いの残業代が発生してしまうことは、会社にとっても喜ばしくはないのです。

残業代を支払わない分、人件費が安くなるという目先の利益はあるかもしれませんが、これらを請求された時のことを考えたとき、会社にとって残業代を支払わないことがメリットしかないというわけではないのです。この点について、以下で説明したいと思います。

未払い残業代に遅延損害金がつくリスク

会社は、単純に未払いの残業代を支払えば紛争から解放されるということはありません。残業代を支払わなかった期間に応じて、利息があわせて請求されることになるのです。そして、この利息について、その算出方法は、労働者がまだ会社に残っているのか、それとも退社してしまっているのかで扱いが変わってくるのです。

まずは、従業員が退職した後は、未払いの残業代については、法律上年あたり14.6%の割合で遅延利息が加算されることが定められています。従業員が在籍している間の請求権に対して加算される利息が年6%であることに比較するとかなりの高利率となっています。

このように、会社がはじめからしっかりと残業代を支払っていれば正しい人件費を支出するだけでよかったのに、未払いという状況を作ってしまったために、余分な支出をしいられることになってしまうのです。

そして、従業員が会社に残っている場合でもかなりの金額が割増しになってしまうのに、従業員が退職してしまっている場合には、さらに余分な金額となってしまうでしょう。

残業代を支払わない会社は、コストを削減するという目的からこのような不誠実な対応をするようですが、結果的にこのような余分な支出をしなければならないのであれば、はじめからしっかりと残業代については管理をし、相応の支払いをする方がリスク管理の意味でも適切であると言えるでしょう。

未払い残業代に付加金がつくリスク


さらにに、会社が残業代を支払わなかったことが認められた場合には、その未払いの残業代金と同額の金額の支払いを裁判所が命じることがあります。これを付加金と言います。

未払いの残業代に加えて、これらの支払いを命じるということは、一種会社に対して制裁を加えるというニュアンスが込められています。会社は社会の中で活動して利益をあげる以上、ルールにしたがった形でその営業を行わなければならないのは当然のことです。

しかし、これを守らない場合、そして、その違法な様子がかなり悪質である場合には、付加金を払わせるというルールを設定することによって、労働者の立場を保護しようとする意味も込められているのです。

付加金を支払わせるかどうか、あるいはいくら支払わせるか、という点については、会社の違反態様や、労働者が被った不利益を総合的に考慮した結果判断されることになりますので、場合によっては高額な支払いをしなければならないことがあります。

労働審判では付加金についての判断は下されず、労働審判で決着がつかず、民事訴訟に発展した場合にかされるのが一般的です。

残業代未払いの計算方法と解決する4つの対処法のまとめ

会社という組織に対して、従業員はどうしてもその地位が不安定であることから、会社から無理を強いられることが多いと思われます。しかし、本来であれば、会社と労働者は対等の関係にあるはずですので、理不尽を強いられることに慣れてしまってはいけません。

近年では、労働条件の劣悪さが社会問題となることがおおいことから、多くの会社でこれに対する改善が採られはじめています。しかし、それでもやはり今回述べたような残業代が支払われないというような状況は生まれるでしょうし、そのような場合には断固として戦うべきでしょう。このような姿勢を労働者が見せることで、社会全体の労働者の環境が次第に改善されていくことにもつながるのです。

いくつか残業代が未払いとなった状況について説明してきましたが、証拠を集める作業など、かなりの時間を要することが予想されるでしょう。

そこで、少しでも自分の労働状況と給与について疑問をもった場合には、すぐにでも対応をはじめるべきです。ここで述べたこと以外にも、残業代の未払いのケースにおいて問題となることはあるかと思われますので、できるだけ早期に専門家のアドバイスを受けるというのも一つの手段です。

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