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2019/04/12

ニカラグア事件判決の論点と判旨|適用法を徹底解説

日本でも憲法解釈の変更により、限定的に認められるようになった「集団的自衛権」は、国際法上でも認められている権利です。
しかし、過去には集団的自衛権行使の正当性を巡り、国家間で裁判に発展する出来事がありました。

これは、「ニカラグア事件」と呼ばれていますが、具体的にどういった出来事だったのでしょうか。
そこで今回は、事件の背景や判決の論点について解説していきます。

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「ニカラグア事件」とは

この事件は、中央アメリカ中部に位置する「ニカラグア」に対して行ったアメリカの軍事行動などが違法であるとして、1984年にニカラグアがアメリカを一方的に提訴したものです。
1986年に判決が下され、国際司法裁判所はアメリカの軍事行動が違法であるとしたものの、アメリカからの賠償がないまま、1991年に裁判が終了しました。

なお、国家間での武力紛争が合法なのか、裁判で争われるのは極めて稀なケースです。
そのため、国際司法裁判所の下した判決は、集団的自衛権を行使するための要件や、「武力行使禁止原則」の内容について、初めて本格的に判断がされた、リーディングケースともいえる判例となっています。

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「ニカラグア事件」の背景とニカラグアの提訴

ニカラグア事件の原因となったアメリカの軍事行動

背景

もともと、西側諸国のアメリカを盟主とする資本主義、自由主義陣営と、東側諸国のソ連を盟主とする共産主義、社会主義陣営との対立が背景にありました。
1959年にキューバ革命が成功したことにより、中央アメリカの国々は東西対立の中に組み込まれていくことになりました。

これにより、親ソ勢力を排除することがアメリカの政策の柱となりました。
そのため、反米勢力が政権の座についたり、そういった可能性がある場合は、その地域に対してアメリカは軍事力を行使することをためらいませんでした。

1979年、ニカラグアを長年支配していたソモサ政権が打倒されたことで、新たな左翼政権が誕生しました。
この左翼政権は、アメリカなどの西側諸国との関係を築いていく一方で、キューバなどの共産主義の国々との関係も築いていきました。

アメリカは、これをアメリカ全体の脅威とし、ニカラグアの親米反政府武装組織であるコントラを支援するようになり、ニカラグアに対して爆撃や港湾への機雷敷設などの軍事介入が始まりました。

ニカラグアの提訴

1984年、ニカラグアは、「アメリカがニカラグアに対して、武力行使と内政干渉を行い、主権や領土を侵害した」と主張し、国際司法裁判所にアメリカを一方的に提訴しました。
アメリカは、ニカラグアがエルサルバドルやホンジュラス、コスタリカに対して武力行使を行い、これらの国から援助の要請を受けたことによる集団的自衛権の行使であると主張しました。

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ニカラグア事件の判決と論点

アメリカ敗訴

国際司法裁判所は、アメリカが集団的自衛権の行使の要件を満たしていないにも関わらず、軍事行動を行ったとして、アメリカ敗訴の判決を出しました。
また、ニカラグアは直接的な損害として、3億7,020万ドルの支払いを命じる判決を求めました。

判決の論点

判決の論点としては、アメリカの軍事行動が、慣習国際法や二国間条約に違反するのかという点にあります。
国際司法裁判所の判決では、まず、ニカラグアのエルサルバドルの反政府勢力に対する武器支援等の行為は、集団的自衛権の行使の要件を満たさないとしました。

次に、そもそもホンジュラスとコスタリカは、アメリカに対して援助の要請を行っておらず、エルサルバドルの援助要請も、ニカラグアの武力行使とは関係ないものとして判断されました。
このことから、武力攻撃を受けた国による援助の要請を受けていないということで、アメリカによる軍事行動は、集団的自衛権の行使の要件を満たしていないことになります。

そして、アメリカの軍事行動は、ニカラグアの武力攻撃とバランスのとれたものではないという結論を下しています。
このことから、「正当な集団的自衛権の行使であった」というアメリカの主張が多数意見で退けられ、アメリカが敗訴することになりました。

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ニカラグア事件の判旨と適用法

ニカラグア事件の裁判で判決が下される

判旨① アメリカの行為

ニカラグアの主張によると、アメリカはニカラグアに対して、武力行使と内政干渉を行ったり、アナスタシオ、ソモサ、デバイレ政権を担っていた人々で部隊を作り、武器や弾薬、資金を供給したとしています。
そして、アメリカ政府の直接の計画や指導により、国際空港や石油施設が攻撃され、港に機雷が敷設されたとも主張しています。

なお、国際司法裁判所の判決では、親米反政府武装組織のコントラに対する武器の提供や支援に対しては、その責任をアメリカが負うものではないと判断しました。
しかし、国際空港や石油施設への攻撃、港へ機雷を敷設したことについては、その一部についてアメリカが関わったと認めています。

判旨② ニカラグアの行為

アメリカの主張によると、ニカラグアは、エルサルバドルの反政府勢力に対して、武器支援等を行ったり、ホンジュラスやコスタリカに対する直接の武力攻撃を行ったとしています。
しかし、国際司法裁判所の判決では、エルサルバドルに対する武器支援等の行為は断続的にあったが、ニカラグア政府が責任を負うことを十分に示す証拠はないとしました。

これが仮に、ニカラグア政府が責任を負うようなものであっても、これは武力攻撃を構成しないものとしました。
また、ホンジュラスやコスタリカに対する軍事介入があったことについては、ニカラグア政府に責任があるとしています。

なお、ニカラグアの行為が武力攻撃を構成しない行為だと判断されたということは、アメリカの主張する集団的自衛権行使の要件を満たしていないことを意味しています。

適用法① 武力不行使

国連勲章の第51条では、相手国から武力攻撃が発生したことを要件として自衛権を行使できるとしています。
しかし、国際司法裁判所では、国連憲章の第2条第4項に定められた、武力の行使を禁止する、「武力行使禁止原則」は、慣習国際法上の原則と合致したものであるとしました。

そのため、この判決では、武力行使を「最も重大な形態の武力行使(武力攻撃)」と、「より重大でない形態の武力行使(武力攻撃に至らない武力行使)」の2つに分けられました。
そして、「最も重大な形態の武力行使(武力攻撃)」が発生した場合に限り、集団的自衛権の行使が認められるとしました。

これによって、ニカラグアからエルサルバドルの反政府勢力に対する武器支援などの行為は、武力行使には該当するものの、これは武力攻撃に至らない武力行使であると判断しました。
そのため、アメリカのニカラグアに対する行為は、集団的自衛権を行使する要件を満たさないとして、「正当な集団的自衛権の行使である」というアメリカの主張を退ける意見が多数を占めました。

適用法② 自衛権

「自衛権」とは、国連勲章の第51条に定められており、外国からの武力攻撃を受けたことに対して、自国を防衛するために緊急を要する場合、それに反撃するために武力を行使する国際法上の権利です。
また、ある国家が武力攻撃を受けた場合、直接攻撃を受けていない第三国が協力し、共同で防衛を行う国際法上の権利のことを「集団的自衛権」と言います。

なお、アメリカの軍事行動は、ニカラグアから武力攻撃を受けた国から援助の要請を受けたことによる集団的自衛権の行使であると主張していました。
集団的自衛権を行使する場合、ある国家が「最も重大な形態の武力行使」を受け、その武力行使を受けた国からの要請を受けて初めて権利を行使することができます。

しかし、国際司法裁判所では、ニカラグアによる武力行使は、「より重大でない形態の武力行使」であると判断しています。
また、アメリカは、「エルサルバドルやホンジュラス、コスタリカの援助の要請を受けた」と主張していましたが、判決では、ホンジュラスとコスタリカは、アメリカに対して援助の要請を行っていないとしました。

次に、エルサルバドルはアメリカに対する援助の要請を行ったものの、これは、国際司法裁判所への訴訟参加の要請であるとしました。
したがって、集団的自衛権の行使の要件である援助の要請には当たらないとしました。

適用法③ 不干渉原則

「不干渉原則」とは、国際法上の7つの原則の1つであり、国家は、一定の事項について自由に処理できる権利を持ち、他国はそれに関して干渉してはならないという原則です。
なお、ニカラグアからエルサルバドルの反政府勢力に対する武器支援などの行為は、他国の内政に対する干渉にあたり、国際法に違反している可能性があるとしました。

しかし、集団的自衛権の行使の要件である「最も重大な形態の武力行使」には該当しないという結論を下しています。
また、アメリカからコントラへの武器支援や、港へ機雷を敷設した行為についても、不干渉の原則に違反するとの判断を下しています。

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ニカラグア事件による内戦の長期化

ニカラグア事件が原因で内戦が長引いた結果

ニカラグアの内戦は、サンディニスタ政権が率いる革命政府軍とアメリカの支援を受けた反革命政府軍との間で長期化しました。
革命政府軍側は、キューバとソ連から軍事支援を受けたことでさらに内戦が続くことになりました。

なお、内戦の長期化によって、多くの国民が死傷し、自然環境やインフラの破壊、アメリカの経済制裁もあって経済が破綻し、ハイパーインフレが発生しました。

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ニカラグア事件の終結

中米和平交渉

ニカラグアの内戦が長期化する中、中米和平交渉の動きが始まり、1987年にグアテマラのエスキプラスで中米5ヶ国首脳会議が開催されました。
そして、戦闘行為の停止に向けた和平への枠組みが「エスキプラスⅡ」として発表されました。

その後、米ソの冷戦が終結し、ソ連からの革命政府軍への支援、アメリカからの反革命政府軍への支援が打ち切られることになりました。
これによって、1989年8月に戦闘を停止し、長期化した内戦が終結しました。

オルテガ大統領の復帰

2006年に行われた大統領選挙でダニエル・オルテガが二度目の当選を果たし、16年ぶりに大統領へ復帰しました。
二期目のオルテガ政権では、一期目での経済、外交政策を変更し、貧富の解消と格差の解消を目指すと表明し、キューバやベネズエラ、エクアドル、ボリビアなどの社会主義国との共同歩調をとっています。

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ニカラグア事件判決の論点と判旨|適用法を徹底解説のまとめ

ニカラグア事件の原因となったアメリカの武力攻撃

ニカラグア事件は、アメリカがニカラグアに対して行った軍事行動が違法であるとして、ニカラグアが国際司法裁判所に提訴した一連の出来事です。
国際司法裁判所では、アメリカの軍事行動は、集団的自衛権の行使の要件を満たしていないとして、アメリカ敗訴の判決が下されました。

なお、この判決は、集団的自衛権を行使するための要件や、「武力行使禁止原則」の内容について、初めて本格的に判断がされた画期的な判決となったのです。

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