奈良弁の特徴
奈良弁は関西圏における方言のひとつであり、独自に見られる特徴があります。
ただ、全国的にはそこまで知られていないかもしれません。
奈良県も含めて、関西で用いられている方言については一括して「関西弁」と言われているところもあります。
ですがやはり地域によるこまかな違いはあるもので、大阪弁を聞くと大阪の人からイメージされるままにその人が気の強い人であるように感じられます。
京都弁ですと、上品そうな印象があるでしょう。
奈良弁から感じられるイメージは大阪弁と京都弁の間、極端に品が良いというほどではないながらやわらかな感じです。
語尾
奈良弁は、語り口が大阪弁と比較してよりスローテンポになっています。
そこまで抑揚がなく、語尾はやわらかといった具合です。
大阪弁で語尾が「やろ」となるような場合ですと、イメージでは「!」が付くような強い口調という印象でしょう。
京都弁の「やね」などといった語尾では、最後のトーンが落ちる感じでつぶやくようにも聞こえます。
そして奈良弁の語尾がどのようになるかと言うと「やよ」、「やん」といったかたちです。
発音は強くもなく、つぶやくほど控え目でもありません。
トーンは、うしろが落ちる感じです。
その例として、自分が発言したことについて相手へ念押しするときに「言ってるでしょ?」と問いかける場面を挙げてみましょう。
大阪弁では「ゆってるやろ?」、京都弁ですと「ゆうてるやないの?」となり奈良弁は「ゆうてるやん」といったようになります。
イントネーション
奈良弁は話すスピードこそ大阪弁よりも遅めですが、こまかなイントネーションについては大阪弁とほとんど違いません。
たとえば関西で「自分」のことを言う「うち」に関しては、京都弁ですと「う」を高く発音します。
それに対して大阪弁、奈良弁では「ち」が高くなるイントネーションです。
ただ大阪弁と奈良弁の間では語尾に違いがありますから、文末に関してはイントネーションもやや異なったものになります。
例を挙げると「こっちに来て」を意味する「こっちおいでや」に関しては、大阪弁では「おいで」の部分で低くなり語尾の「や」が高く強い発音です。
それが奈良弁ですと、「おいで」が高くなり「や」をやわらかに下げて発音します。
アクセント
奈良弁のアクセントに関しては、語尾に見られるように歯切れ良く落とすといったイメージでしょう。
関西弁の中で比較すれば大阪弁は「!」(エクスクラメーションマーク)がつくような強いアクセント、京都弁は問いかけるようなアクセントといったように区別することができます。
人に対して、「行って」と声をかける場面を想定してみましょう。
大阪弁では「行き!」といったようになり、やはりどこか強い口調で言われているような印象を受けるかもしれません。
京都弁になると「行きはったら?」となり、仮に急ぎであってもそのように感じられなさそうな落ち着いた印象です。
そして奈良弁では、「行ってや」といったような違いがあります。
文字にすると想像しにくいところもありますが、声に出すことでわかりやすいかもしれません。
同じ言葉であっても、伝わり方は大きく異なるのです。
奈良弁は歴史深い言葉?
奈良弁には、「大和弁」(やまとべん)という呼称もあります。
「大和」とはそもそも奈良盆地の東南部を呼んでいた名前であり、そこが古墳時代に政治の中心となっていました。
地域一帯は7世紀ごろまで日本の中心であり、そこで奈良弁が用いられていたのです。
同じ日本の方言でもたとえば北海道弁は開拓が始まった近代以降につくられてきたものですから、そう考えると奈良弁は非常に歴史深いということになるでしょう。
都城が奈良から京都へと移った平安時代になってからも京都や大阪との行き来が活発であったことから京都弁、大阪弁といった言葉とも近しいものになりました。
奈良弁と京都弁の違い
京都弁についてはあまりよく知らないという人にもイメージがあるように、穏やかなものに聞こえるという点が特徴です。
その理由のひとつは、「長母音」(ちょうぼいん)が多いところにあるでしょう。
母音が伸びるということであり「言った」であれば「ゆうた」、「買った」であれば「こおた」といったようになります。
その一方で語尾が長母音となる場合は短く発音される向きがあり「蝶々」であれば「ちょうちょ」、「学校」であれば「がっこ」といった発音です。
その穏やかさに加えて語尾に「はる」をつけるなどの敬語表現も多く使われるため、優雅な印象が強いものにもなりここが奈良弁との大きな違いとなっています。
奈良弁では「座布団」を「だぶとん」と発音するなど五十音一覧で言うとザ行の音をダ行で発音することが多く、そのあたりから上品というよりも大衆的な穏やかさという印象が生まれるのです。
奈良弁と大阪弁の違い
大阪弁は、基本的に奈良弁と変わりません。
その違いはアクセント、イントネーションといったところにあります。
大阪弁にも地域による違いはありますが、共通して母音は明瞭に発音するため歯切れの良い印象です。
一部の地域ではその歯切れが良すぎるため、ケンカ腰であるかのように聞こえるかもしれません。
実際に話している側ではそのような意識がないにもかかわらず、恐怖をもって受け止められることもあるほどです。
つまり語句などが同じようなものであっても、大阪弁は早口で語尾の上がる話し方から迫力が感じられるということになるでしょう。
それに対して奈良弁は、テンポが落ち着いていて語尾も下がる話し方であるため口調としては正反対であると言っても過言ではありません。
有名な奈良弁一覧
有名な奈良弁は、以下の6つあります。
- いらん
- おとろしい
- ぎょうさん
- いぬ
- ほんだら
- ほかす
では、それぞれの「奈良弁」について詳しくみていきましょう。
有名な奈良弁①:いらん
「いらん」という表現は一般的に「いらない」、「必要ない」といった意味で用いられるイメージでしょう。
ですが奈良弁ですと、「いらん」は嫌がっているニュアンスを伝える言葉になります。
たとえば普通に食べ物をすすめるときなどにも使われるのですが、返事の意図としては「今はいらない」といったものではなく「嫌だからいらない」という感情が込められているわけです。
逆に何かを分けてほしいと頼んだときに「いらん」と言われれば、それは嫌だからあげないという気持ちから言われたことになります。
有名な奈良弁②:おとろしい
「おとろしい」と聞くと、「おそろしい」という言葉が訛っているようにも感じられますがそうではありません。
奈良弁で「おとろしい」には「面倒」、「わずらわしい」といった意味があります。
ですから何かをしてほしいとお願いして「おとろしいわ」と返されれば、それは面倒だから前向きな姿勢ではないということです。
ちなみに奈良弁と近しい大阪弁でも、「おとろしい」に関しては意味が異なっています。
こちらが、「おそろしい」の訛りです。
ただ直接「わずらわしい」と言われるよりも、「おとろしい」と言われることでソフトな印象があります。
有名な奈良弁③:ぎょうさん
「ぎょうさん」は奈良弁としても使われていますが、純粋な奈良弁というわけではありません。
日本全国にも広く関西弁として有名になっているように、関西全域で一般的な言葉です。
意味にも独自のものはなく、「たくさん」といった意味で使われます。
あまり知られていませんが該当する漢字もあり数や程度が多い、大げさである様子を示す「仰山」というものです。
使い方としては、文法上ですと副詞のように「人がぎょうさんおる」などと使用されます。
有名な奈良弁④:いぬ
奈良弁には「いぬ」という方言があり、これは「犬」でもありませんし「いない」ということでもありません。
奈良弁で、「いぬ」は「帰る」という意味です。
実はこの意味は、古語と同じものになっています。
古語で言う「いぬ」は「往ぬ」、「去ぬ」ということで「立ち去る」といった意味の言葉です。
そこから意味を変えることなく、奈良弁では現在まで使われ続けています。
こういった歴史が息づく言葉には、上品さが感じられるかもしれません。
有名な奈良弁⑤:ほんだら
奈良弁で「ほんだら」は、「それでは」といった意味合いになります。
元々「それでは」というかたちだった言葉は、日本各地においてさまざまに崩され変化して使われるようになりました。
「それじゃ」しかり、「そんなら」しかりです。
「ほんだら」もまた、言葉の崩れによって生まれた方言であるとされています。
ひとつ注意しなければならない点が、「あほんだら」と似ていることでしょう。
聞き間違えて、馬鹿にされていると勘違いしてしまっては大変です。
有名な奈良弁⑥:ほかす
「ほかす」という言葉には、奈良弁で「捨てる」という意味があります。
厳密には奈良弁としてだけ使われているのではなく、関西全域において一般的に用いられている言葉です。
使い方としてはたとえばそこにあるものを捨ててほしいというときに、「それほかしといてや」といったように使用します。
ただ、方言としては高い年齢層の間でおもに使われている傾向があるかもしれません。
若い世代にはそこまで使われなくなっていて、やがては死語のようになってしまう可能性もあります。
おもしろ・かわいい奈良弁一覧
おもしろ・かわいい奈良弁は、以下の10つあります。
- よばれる
- しやなあかん
- いちびる
- かえとこ
- いけず
- もむない
- まわり
- もっぺん
- ほうせき
- こそばい
では、それぞれの「奈良弁」について詳しくみていきましょう。
おもしろ・かわいい奈良弁①:よばれる
奈良弁で「よばれる」と言うと、「食べる」という意味になります。
一般的には招待を受ける意味で「およばれする」というかわいい表現もありますが、それをより限定的な意味合いにした印象です。
「夕飯よばれてきた」と言うと「夕飯をごちそうになった」、「よばれていきなさい」と言うと「食べていきなさい」ということになります。
位置付けとしては「食べる」よりも丁寧なニュアンスが含まれていて、敬語のような感覚でしょう。
また自分で食べるときではなく他人に食べさせるシチュエーションであることから、「おごられる」と言い換えることもできます。
おもしろ・かわいい奈良弁②:しやなあかん
「しやなあかん」は、奈良弁で「しなければならない」という意味です。
「うち、買い物しやなあかん」などといったように使います。
この表現も奈良弁としてだけでなく、関西地方において共通しているものです。
少しずつ違った言い方もあって「しゃんならん」や「せなあかん」、「しんならん」と言っても意味に違いはありません。
いずれの言い回しをしたとしても、関西において何を言っているかわからないということはないでしょう。
おもしろ・かわいい奈良弁③:いちびる
「いちびる」という奈良弁は動詞であり、「ふさける」ことを意味します。
たとえば急いでいるときや真面目にしていなければならないときに子どもがふざけていれば、「いちびるんじゃないよ」と注意するといった具合です。
京都弁ですと「調子に乗っている」という意味になり、これは「ふざける」も含んでより広い意味合いになっているのかもしれません。
いずれにしても、言葉としてはやわらかな印象です。ただ大阪においては、あまり通じない言葉でもあります。
おもしろ・かわいい奈良弁④:かえとこ
「かえとこ」は、「交換する」という意味を持っている奈良弁です。
同じ意味であっても発音する数が少なく、文字で書くにしてもひらがなで表現されますからやはりやわらかな印象になります。
言い方ひとつで同じことを言おうとしても雰囲気が一変するものであり、その場が和むことにもなるかもしれません。
使い方としては子どもへ言って聞かせるようなイメージで、「交換しよう」と言うときには「かえとこしよ」と言い変わるのです。
おもしろ・かわいい奈良弁⑤:いけず
「いけず」は、京都の言葉としてよく聞かれる方言です。
全国的には人気アニメーション作品の「ちびまる子ちゃん」で主人公のまる子が度々口にしていたこともあって、相応に知られています。
実は奈良弁としても、意味に違いはありません。
「いけず」は、「いじわる」という意味です。
メディアでは、女性が使うことによってかわいい言葉としても取り上げられる場合があります。
ケンカをして、あるいは意地悪をされて「いけず」と言われると思わず許してしまう男性が少なくありません。
おもしろ・かわいい奈良弁⑥:もむない
「もむない」は純粋に奈良でしか用いられていない奈良弁であり、その意味は「あまりおいしくない」というものです。
たとえ関西であっても、県外ですと理解してもらうことはできないでしょう。
ただニュアンスとしては、明確に「おいしくない」というものではありません。
オブラートに包んだようなかたちで、「あんまりもむないわ」といった言い回しにすることが一般的です。
自分が言うことはともかく、作ったものや渡したものに対してダイレクトに「まずい」と言われることを考えればより良いのかもしれません。
おもしろ・かわいい奈良弁⑦:まわり
「まわり」と言うと、一般的には「周囲」などを意味する言葉です。
それが奈良弁ですと「まわり」は「準備」や「用意」といった意味を持ちますから、本当に奈良弁の知識がなければ文脈で「まわり」という言葉が出てきても知る由もありません。
ですがこれもまた「準備」、「用意」と言う場合に比べてやわらかな印象になります。
「早く準備しないと」が「はよまわりしいひんと」となり、語尾へつながる言葉との組み合わせによってもかわいらしく聞こえるのです。
おもしろ・かわいい奈良弁⑧:もっぺん
比較的イメージしやすいかもしれませんが奈良弁で「もっぺん」は「もう一度」、「おねだり」といった意味です。
子どもも好きなパ行、半濁音の音が含まれていることによってもかわいらしい印象になります。
そのイメージも強いようで、妙齢の女性が言うことに適している方言として挙げられる例が少なくありません。
頼みごとをしたり甘えたりするような場面で「もっぺん」という言葉が出てくると、意図的にかわいらしさを演出しなくても自然にそう思わせることができるわけです。
おもしろ・かわいい奈良弁⑨:ほうせき
「ほうせき」という言葉を文字通りに受け取れば、間違いなく「宝石」でしょう。
奈良弁で言う「ほうせき」は、「お菓子」を意味しています。
これは奈良ならではの方言であり、伝統的にさまざまな美しい和菓子が誕生してきた奈良ではまさにお菓子が宝石にたとえられているのです。
実際に宝石が「宝石」の呼称で認知されるようになった時期が和菓子の登場よりも後の時代であることを考えれば、そこもおもしろいところでしょう。
洋菓子を含めて「ほうせき」と呼ばれていることも、またユニークなところです。
おもしろ・かわいい奈良弁⑩:こそばい
別の地域においても用いられている方言ですが奈良弁で「こそばい」、あるいは「こそばゆい」は「くすぐったい」を意味しています。
言葉として用いる場面は、普通に考えると人にくすぐられたときでしょう。
実際には身体がくすぐったいというだけでなく、言ってみれば「気持ちがくすぐったい」という場面にも使われています。
つまり照れるようなシチュエーションで胸がむずむずするといったときに、「こそばい」と形容するわけです。
奈良県の方言と京都や大阪の方言の違い!可愛い・面白い奈良弁一覧!のまとめ
関西の方言と言えば関西弁、イコール大阪弁であるようなイメージもありますが実際には京都弁や奈良弁といったように違いがあります。
県、地域によって言葉には明確な差があるのです。
歴史もある奈良弁であり、このところは方言がかわいいということで改めて注目もされています。
地方の言葉が恥ずかしいとして、「封印」する必要はまったくないでしょう。